FC2ブログ

「フランス/パリ滞在質問箱」に時折割り込んで掲載(第13回)  私書函版「フランス/パリ・子育て雑記」(第13回)

「フランス/パリ滞在質問箱」に時折割り込んで掲載(第13回) 
私書函版「フランス/パリ・子育て雑記」(第13回)

前回(第12回)、バカロレア(BACCALAUREAT略称BAC)は合格席数を争うコンクール(CONCOURS)ではない、受験科目の平均点(傾斜配点係数方式)が10/20点以上が合格、と記しました。さらに、BACの合格率は80%を越え90%に近い、とも。2件の問い合わせがありました。
まず、問い合わせがあったことに驚きました。「子育て雑記」は、フランスの複雑な学制、入り組んだ教育事情を記した個人メモのようなものですから、読者からの反応は期待していませんでした。      ところが熱心な読者が少なくとも2名いたのです。プライバシーに配慮しつつ、2件の問い合わせを  一つにまとめます。
                        **
お子さんがフランスで出生し、幼少時に日本へ帰国しました。日本ではリセ・フランセにもインターナショナル・スクールにも通わせていません。フランス語の家庭教師はつけていますが、フランス人教師の
帰国で空白があったりして継続的ではないといいます。おおむね、こういった状況ですが、何歳くらいまでにフランスの学校に通わせればBACに合格できそうでしょうか、という問い合わせです。

それはお子さん次第でしょうが、途中参入はお子さんにとって楽ではないですよ。記憶にある途中参入の最近例、それも成功例で申し上げます。
Aさんはフランス語がほぼ白紙状態で14歳で渡仏してフランス校に入り、2年足踏みしてBACに合格しました。足踏みとは「原級留め置き」です。日本でいえば、例えば小学5年生が6年生への進級が認められず、もう1年、小学5年生の授業を繰り返すことです。REDOUBLER(ルドウブレ)といいます。
その後、高校1年で高2に進級できずに高1を繰り返えしたとします。2回目のREDOUBLERです。
これが2年の足踏みです。
日本から14歳での途中参入、2年の足踏みでBACにたどり着いたとは、たいした努力家です。賞賛に値します。
もう一例。
Bさんは小学5年生まで「外国語としてフランス語」を学んできましたが、本人にいわせれば「ほとんど役に立たなかった」のでした。12歳でコレ-ジュ(中学校/4年制)の初年度から途中参入し、1年足踏みしてBAC合格に滑り込んでいます。
二人とも頑張り屋さんです。たいしたものです。10歳を越えてからの途中参入には厳しいものがあります。BACにまでたどり着かないケースが多数派でしょう。足踏みすることなくBACにたどり着く途中参入の確実な安全圏は5歳まで。過去の諸ケースからこう見ています。
10歳以上であれば、REDOUBLERは覚悟してください。何より心配なのはお子さんが疲れ切って   モラル・ダウンすることです。また、日本にはないREDOUBLERは、親にとっても大ショックでしょう。
マイナス志向の物言いでごめんなさい。
  **

少々気が重くなっていたところに、思いがけない「フランス子育て談義」が飛び込んで来ました。
週刊朝日2017年11月24日号106-110頁)、林真理子さんと作家でミュージシャンの辻仁成さんの対談です。
辻仁成さんは、中学生の息子さんと一緒に住んでいます。私立の名門校に通わせていることが対談からうかがわれます。
こんな部分があります。同記事から引用します。
辻 フランスには学習塾がない。その分中学生も、学校で出された宿題をこなすだけで夜の1時ぐらいまでかかるんです。宿題をみるとわけのからない分数の計算式が並んでいたり、覚えなきゃいけない詩が100編くらいあったりするんです。
林 詩を暗唱するんですか。
辻 小学生でも毎日古典的な詩を1編ずつ暗唱するんですよ。
林 リルケとか。そういう古典を?
辻 そう、コテコテの古典ですね。
林 それは素晴らしいですね。

この対話で鮮明に思い出したことがあります。次男坊が小学生のある時。
詩の暗唱のテストがある。毎日、数人が受けているのだが、次男坊の番が回ってきたので手伝って欲しい、というのです。どう手伝うのか、こういうことでした。与えられている3編の詩を暗唱する。どの詩が当たるかはクジ引きになる。とにかく3編を暗唱しておかなければならない。それで、3編の詩に1、2、3の番号をふったクジ札をつくり、「1(2、3)を引いたら、それぞれの詩」を暗唱するので、チェック して欲しいというのです。手元に3編の詩を手渡されました。3編の詩は、
シャルル・プルミエ・ドルレアン (CHARLES 1ER D’ORLEANS), クレマン・マロ(CLEMENT MAROT), ピエール・ド・ロンサール(PIERRE DE RONSARD) の詩です。
20年余も前のことなのに、しっかりと覚えています。RONSARD(ロンサール)の名前は知っていました。
よく知られたな名前ですが、フランス語ではもとより日本語訳でも読んだことはありません。当時住んでいたパリ17区にCOLLEGE PIERRE DE RONSARD(ピエール・ド・ロンサール中学校)がありました。 公立中学校です。拙宅から遠からずの距離にありましたが、学校区が違うので入学できませんでした。このあたりの事情は第10回に書き込んでいます。
クレマン・マロ(CLEMENT MAROT) は、勤務先の在仏日本人会オフィスがシャンゼリゼ97番地にあり、その裏手にRUE CLEMENT MAROT(クレマン・マロ通り)があったので、なんとなく名前だけは知っていました。シャルル・ドルレアン1世は全く知りません。王侯貴族でしょうが、詩人として後世に名を残したのでしょう。フランス古典詩など読んだことのない親です。
それはさておき、次男坊の暗唱は、詩の内容に合わせて、身振り手振りよろしく、抑揚をつけた朗唱となるのでした。感情移入のない棒読みは点数が低くなるということでした。
あれから20年、現在、フランス国外で仕事をしている次男坊に「詩の暗唱のテスト、憶えているかい」と質したところ「憶えていない、詩は全く憶えていない、そんなテストがあったことも憶えていない」と一笑されたものです。
僕もその当時は「古典詩の暗唱とは素晴らしい、さすがは文化大国フランスだな」と感心したものです。
しかし、二人の息子がフランス校での学校教育を終えた今は、もう少し客観的な見方をしています。
                      
 **
                     
ここはフランスです。フランス語は日本でいうところの国語です。小学校(5年制)の高学年、中学校(4年制)あたりから  国語の授業でフランス古典詩を暗唱させることは当たり前のことに思えます。   英国であれば、シェクスピアのソネット詩とかウィリアム・ブレイク、ワーズワースあたりでしょうか   (確認していませんけど)。
僕自身の小・中学時期を振り返れば、小六あたりで、万葉集は柿本人麻呂、大伴家持、山上憶良などの和歌を習って暗唱したものでした。百人一首の中の数首は中学校の教科書に載っていて暗唱もし、馴染んでもいました。平家物語の冒頭「ぎおんしょうじゃのかねのこえ、しょぎょうむじょうのひびきあり、、、」を丸暗記したのもこの時期だったでしょう。兼行法師の「徒然草」や鴨長明の「方丈記」の冒頭部分だけは誰もが暗唱していたものです。今は早期英語教育が提唱される時代ですから、「古典に親しむ」は早期学習の課題ではないでしょうが、それでもたまたま手元にある中学校1年の教科書(光村図書、2010年刊行)をめくると、「古典との出会い」に「竹取物語」が登場しています。
古典詩の暗唱はフランスの学教教育の専売特許ではないでしょう。お二人の対談は「小・中学校から古典詩を暗唱させているフランスの教育は素晴らしい」ですが、フランス語というブランド語(?)で古典詩を暗唱させていることが羨ましい、ということではないでしょうか。」                    

 * *
ところで、僕がいいたいことは、そうした日本人の西欧語への羨望心理ではありません。
古典詩の暗唱はフランス語学習では極めて牧歌的な時期のことで、COLLEGE(コレ-ジュ=中学校(4年制)の高学年からLYCEE(リセ=高校(3年制)へ、さらにはプレパ(注 1)へと、フランス語学習の特色が強力に押し出されてくることです。
フランス語は高校2年時にBACCALAUREAT(バカロレア通称BAC)試験があります。
筆記試験(ECRIT/エクリ)と口頭試問ORAL/オラル)の2本立てです。筆記試験は理系、社会経済系、文学系、技術系とも4時間です。(注 2)
筆記試験は、以下の(1)、(2)、(3)からの選択になることが多いようです。
(1) INVENTION DE SUJET
(2) COMMENTAIRE COMPOSE
(3) DISSERTATION(ディッセルタシオン)  (注 3)
(1)は、創作。与えられたテクストがあって、例えば「作者の文調、文体を維持しつつ、
「この話しの続きを創作しなさい」。
(2)は評論と解釈。
(3)は論文。与えられたテーマに対して、問題点の提起と設定、考察と展開、結論と収束といった形式で論述を組み立てます。
日頃のフランス語授業の内容も、高校2年で受験するこの試験に向けて修練していくことになりましょう。先に「フランス語学習の特色が強力に迫ってきます」と記したのはこのことです。

(注 1) 正確にはCPGE(CALASSE PREPARATOIRE DE GRANDES ECOLESグランゼコール入学試験のための準備クラス。通称プレパ)。通常は2年教程。

(注 2)現行の制度では、高校2年から理系(S)、社会経済系(ES)、文学系(L)、技術系(TECNIQUE)の3コースに分かれます(これは2021年度から改革されるようですが、改革案もはっきりしていないので、ここでは触れません)。そして、高校2年の学年末にフランス語のBAC試験が実施されます。   その点数は、翌年の高校最終学年で受験するBAC本試験の成績に算入されます。

(注 3)インターネットで「ディッセルタシオン」を検索したところ、「フランスのディッセルタシオン試験はいかに行われるか」(大阪教育大学の紀要)が出てきました。フランス人留学生(25歳)に実際にディッセルタシオン試験を受けてもらい、その結果を分析した論文です。
テーマは社会学分野で「LA FRANCE EST-ELLE YANKEESEE?」(フランスはヤンキー化されたか?)。
「ディッセルタシオン」の模範解答例(の日本語訳)が掲載されています。
                       
**
LYCEEでの日頃のフランス語試験の採点の辛さも相当なものです。20点満点方式ですが点数が2ケタあればオンの字でしょう。
BULLETIN SCOLAIRE(成績表)には、クラスの最高点、最低点、クラス平均点、本人の得点の4つの点数が記されています。フランス語のクラス最高点は16点前後、クラスに一人、せいぜい二人。クラス平均点は8-9点、最低点は5-6点といったところでしょうか。
日本人の親は、この成績数字を見て「なんだ、この点数は!」になります。COLLEGE(コレ-ジュ=中学校・4年制)の後半から成績が下降気味にあった生徒は、かなりの確率でREDOUBLER(ルドウブレ=原級据え置き)になりましょう。
長男、次男がリセ(高校、3年制)在学中、それぞれ一回ずつ「保護者会」に出席したことがあります。主要教科の教員が「このクラスの平均レベルは、、、」「一人だけ高いレベルの生徒がいるが、、、」といった講評をします。
長男、次男は小学校(5年制)、コレージュ(中学校、4年制)は同じA小学校、B中学校でしたが、リセは長男がリセC、次男がリセDでした。学業年齢も11年違います。ところが、フランス語の担当教員が
開口一番にいったことが同じだったのには驚きました。「このクラスのフランス語試験の結果はCATASTROPHIQUEであった」。壊滅的な結果、悲惨な結果。事実でもあったでしょうが、これはフランス語教員のあいさつ言葉、枕言葉だな、と思ったものです。

                     **
BAC合格後のプレパ(注 1)でのフランス語学習にも特徴があります。手元に「夏休み期間(7-8月)に読むべき課題図書。なお、9月新学期早々に試験を行う」が残っています。二つ紹介します。
(1) テーマ  MESURE ET DEMUSURE
   課題図書 
   プラトン  ゴルギアス
   ラブレー  ガルガンチュア
   モリエール ドン・ジュアン
 いずれも、出版社・編者・訳者が指定されています。 A出版社刊、編者Bによる版に限る、ということです。  
 MESURE(ムジュール)は、計測、計量が可能なもの、可能なこと。DEMUSUREは、 MESUREの
反対語で、計測、計量が不可能なもの、不可能なこと。過剰、過大。尋常と過剰、通常と過大、といった意でしょう。


(2) テーマ AILLEURS
   課題図書
   レヴ ストロース   悲しき熱帯
   アンリ ミショオ    アジアの野蛮 
   ホメロス         オデッセイ 
  AILLEURSは、「何処」「彼の地、此の地」の意でしょう。「熱帯」、「アジア」、オデッセイの「放浪」から推測されます。

ここに挙げた(1)(2)の二例は、理数系・技術系コース、つまり、ECOLE D’INGENIEUR(注 4)受験クラスでのフランス語学習です。
(1)(2)以外の他の例も合わせて見比べてみますと、
あるテーマ=概念に沿って、①小説など物語、②戯曲、③詩(叙情詩・叙事詩)、④社会学・哲学系の評価の定まった著作など4つのジャンルから名作、名著3つがテキストとして選択されていることがうかがえます。
3ジャンルの3テキストを駆使して、与えられたテーマ=概念について論述展開せよ、ということのようです。

(注 4)ECOLE D’INGENIEURについては、12章で詳述しています。
                      
**
あるテーマ=概念についてテキストを駆使して論述展開せよ、はフランス語だけではありません。
例えば、外国語(日本語含む)のBAC試験では、テーマ=概念がNOTIONとして事前に与えられています。これについては章をあらためることにします。
また、高3で必修科目となるフィロソフィー(哲学)も同様に論述展開です。先に述べたように、高2でフランス語のBAC試験があって、教科としてのフランス語は終わりになります。そして、高3の授業ではフィロソフィー(哲学)になります。高3の学年末(6月)に行われるBAC本試験の初日は伝統的にフィロソフィー(哲学)です。フィロソフィー(哲学)は、哲学史の授業ではありません。BAC試験も哲学史の知識を問うものではありません。正義・公正(LA JUSTICE)、人権(LE DROIT)、L'ETAT(国家)、BONHEUR(幸福)、欲望(DESIR)といった日常語の本質的な意味についての設問です。
例えば、「自由(LIBERTE)は、常に、あるいは時として、正義・公正(LA JUSTICE)、人権(LE DROIT)、L'ETAT(国家)の下位に位置すべきか」といった設問への論述展開です。

いずれにしても、基本にあるのは先記したディッセルタシオン(DISSERTATION)のように見えます。   相当な思考力、表現力がないと幼稚な作文になりかねません。高2で受験するフランス語BAC試験では「ディッセルタシオンを選べば、選らんだけで最低12点はもらえる」の風聞があるほどです。
もっとも「12点以上取れそうもないBAC受験生しかディッセルタシオンを選ばない」の逆風聞もあるようですが。
もとより、こうしたフランスの学習方法、学力評価方式の是非を問うつもりは毛頭ありません。
日本でも2021年から「大学入試共通テスト」がスタートするようです。同テストは「暗記した知識を問うのではなく、思考力、判断力、表現力を重視した記述方式の試験」と謳っています。一方では「公正な評価(採点)ができるのか」と危惧する声もあるようです。フランスの学習方法、学力評価方式を傍観してきた僕の最大関心事です。

2018年3月30日  記   岡本宏嗣
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

okamotohirotsugu

Author:okamotohirotsugu
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR